大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 平成元年(行ツ)58号 判決 1991年1月17日

神戸市北区泉台五丁目一三番の三

上告人

沖幸逸

神戸市兵庫区水木通二丁目一番四号

被上告人

兵庫税務署長 藤本秀幸

右指定代理人

山口仁士

右当事者間の大阪高等裁判所昭和六三年(行コ)第二九号法人税更正処分等無効確認請求事件について、同裁判所が平成元年二月二二日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。本件の訴訟記録によれば、原審の訴訟手続に所論の違法はなく、右違法があることを前提とする所論違憲の主張は失当である。また、所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 四ツ谷巌 裁判官 大内恒夫 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋本四郎平)

(平成元年(行ツ)第五八号 上告人 沖幸逸)

上告人の上告理由

一 主位的請求について

第一点 原判決は、第二当事者双方の主張一、原判決(第一審判決)の訂正5において、原告(控訴人、上告人、以下これに同じ。)の主張の一部を「右株主総会の承認決議によつて清算は終了し、株式会社の法人格は消滅するというべきであつて、」と改めるとするが、上告人は株主総会の承認決議によつて「清算は結了する。」と主張しているのであつて、「清算は終了する」と主張しているのではない。上告人は「清算を終了していること」と「清算を結了すること」とは厳格にこれを区別しているのであり、「清算の終了」とは商法四二七条第一項の「清算事務ガ終リタルトキ」であり、「清算の結了」とはこれに対する株主総会の承認決議があつた場合であると主張している。この区別は以下にのべるように同条の解釈にも原告の主張にも重要な意義を有するものである。原判決は「清算の終了」「清算の結了」とは同一意義で単なる別の表現にすぎないと解して、漫然と上告人の主張まで上記のごとく訂正しているものである。このように原告の主張を誤つて訂正しては、正しい判決をなすことなど出来る道理がない。原判決は、弁論主義に反する違法のものである。

第二点 原判決は、上記二、当事者双方の主張の追加において、被控訴人(被告、被上告人、以下これに同じ。)は「本件予備的請求について、被控訴人の本案前の抗弁が認められないとすれば、被控訴人は、その実体審理につき原審に差し戻しを求めることなく、当審において実体審理されることに同意する。」とあるが、被控訴人は単に実体審理をすることに同意しただけであつて、「本案前の抗弁が認められないとすれば被控訴人は、その実体審理につき原審に差し戻しを求めることなく」という部分は、原審が勝手にこれを粉飾して追加した主張である。そもそも被控訴人は、第一審判決が正当なものとして控訴棄却の判決を求めているものに過ぎず、仮にこのような同意をしたとしても、これをもつて附帯控訴があつたものとして、第一審にこれをさしもどすことなく請求棄却を求めることが出来ないくらいのことは、十分これを承知しているものである。従つて被控訴人にあつては、本案前の抗弁が認められないとすれば、当然第一審に差し戻しされることを予定しているものであつて、それ故にこそ、附帯控訴をなさなかつたものである。

原判決は、被控訴人の主張のないことまでこれを脚色して、恰もこの主張があつたものであるかのようにこれを追加しているものであつて、このようなことは裁判以前の問題であつて、単に弁論主義に反するばかりではなく、公平な裁判を保障する憲法にも違反するものである。

第三点 原判決はその判決理由二2(一)において、「清算中の株式会社は、会社の全資産を処分すると共に全ての負債を支払い、残余財産があるときはこれを株主に分配し終わつた時に清算は結了し、その法人格が消滅する」とするが、被上告人はなんらこのような主張をしていないのであるから、このような判決をすることは出来ない。原判決には弁論主義に反する違法がある。

しかし仮にこれが弁論主義に反しないとしても、清算が結了する時とは、清算事務を終了し、決算報告書を作成し、これを株主総会に提出して、その承認を得た時を指すのであつて、これ以外の何ものでもない(商法四二七条一項)。残余財産を株主に分配し終わらなかつたとしても清算は結了する。何となれば、この承認のあつた後清算人は、本店の所在地においては二週間、支店の所在地においては三週間内に「清算結了の登記」をなさねばならず(同法一三四条)、しかもこれを怠つた場合は百万円以内の過料に処せられるからである(同法四九八条一項一号)。若しこの承認によつて清算が結了せず、残余財産を分配し終わつたときに清算が結了するとするならば、この承認があつても「清算結了の登記」は出来ず、仮にこれをしたとしても、それは不実登記となり商法は不実登記を義務づけているという不合理なことになる。又この承認後、残余財産の引き渡し完了まで清算が結了しないとすれば、清算の結了が著しく遅延するばかりではなく、何時清算が結了したかは外観よりこれを知ることが出来ず、商法の画一性に反し、法律行為の安全性、取引の安全性を著しく侵害することになる。従つて、この承認決議により株式会社の清算は結了すると解されなければならない。

尤もこの承認を得る前であつても、会社債務を弁済した後であれば、残余財産の分配はなし得るが(同法一三一条)、株式会社の場合はこの承認が条件となるのであつて、仮にこの承認前に残余財産の引き渡しが完了したとしても、これによつて清算は結了せず、この承認があつて初めて清算が結了する。控訴人引用の最高裁昭和五九年二月二四日判決(甲第三十六号証)は、原判決の見解を否定し、このことを明らかにしたものである。

又同法四二七条一項の「清算事務が終わつたとき」とは、現務を結了し、債権を取り立て、債務の弁済をすべて完了したときであつて、残余財産を引き渡し終わることまで含むのではない。上記承認をえるためには、清算事務が終わることと、残余財産分配決議案を含めた決算報告書を遅滞なく作成することが要件となつているのであるから、この承認によつて残余財産の分配が決定されるものであり、この承認前に、残余財産の分配・引き渡しを完了してしまうことなど本末転倒の異例のことであるからである。以上のごとく、清算事務が終われば直ちに決算報告書を作成し、この承認決議をうけることによつて、法律的に残余財産の分配は完了し清算は結了するのであつて、残余財産の引渡しは、この清算終了後の問題であつて、この引き渡しが完了しなければ清算事務が終了しないというのではない。もしそうでなければ、上記のごとく、株主総会之承認があつても残余財産の引き渡し完了まで清算が結了しないという同じ不合理な結果になるからである。

そもそも株式会社における任意清算は、債務の割合的弁済ではなく(同法四三八条一項参照)その完全な弁済が前提となつているものであり、それゆえこの場合は残余財産が生じるのが通常である。会社の消滅を単に物理的にこれを見れば、この残余財産を株主に分配し引き渡し終わつて、会社財産が皆無となつたときに会社が消滅するのが最も自然的であると言いえよう。しかしそれでは現務の結了、財産の換価、債権の取り立て、費用の支払、債務の弁済などの清算事務が事実上完了しているにも拘らず、これを株主に引き渡しおわるのに日時がかかるため、株主総会の開催が著しく遅延し、この清算事務の適否の判断も極めて困難になり、又清算人の責任も長期にわたって解除されないこととなる。任意清算においては総ての債務が弁済されれば会社債権者の保護になんら欠けるところはなく、単に会社株主の保護のために、このように清算結了を延引する必要などは毛頭ない。清算事務が終了し残余財産が確定されこの分配額が決定すれば、直ちにその適否を株主総会の判断に委ね、これが承認されれば清算が結了するとしても、株主の保護に適しこそすれ、なんらこれを害することにはならないのであり、一般的取引社会に対しても、却て早期に清算を結了することにより、妥当な結果をえることになるのである。そこで商法は、この清算事務の終了と共に清算人において遅滞なく決算報告書を作成して、株主総会の承認を受けなければならないとし、この承認によつて清算が結了するものとし、敢て残余財産の引き渡し完了を必要としなかつたのである。この決算報告書に添付される残余財産の分配案に対する承認決議により、株主名簿の記載に従い(商法二〇六条一項)その記載株主にたいしその株式数に応じ残余財産の分配が完了し(商法四二五条)、これによつて法律的に会社財産は皆無となつて会社は消滅することになるのである。従つて、株主に対する引き渡しの財産があつても、それは最早会社の有する残余財産ではなく、個々の株主の固有財産であつて、単に元清算人がこれを保管するに過ぎないものとなるである。

しかし、任意清算において「清算事務が終わつた」と言い得るためには、総ての債務が弁済されなければならない。総ての債務には、除斥された債権者に対する債務(商法四二二条二項、四二一条一項)は勿論のこと、除斥された債権者に対する債務(同法四二一条二項)も含まれることはいうまでもない。しかし後者に対しては、未だ分配せざる残余財産が有る場合のみ弁済すればよいとされており(商法四二四条一項)、又この未分配の残余財産であつても、分配済みの株主に対する同一割合で分配するに要する財産は控除されることとなつているので、この範囲でのみ弁済すればよいこととなる。従つて、既に分配を受けた株主よりこれを返還せしめて弁済する必要もなければ、仮に残余財産がこれに不足したとしても特別清算の申し立て(同法四三二条二項)などの必要はないのである。

しかし、清算結了により法人格が消滅してから後に知れた会社債権者などは、最早除斥される債権者にも該当しない者である。従つてこのような債権者が、未引き渡しの財産のあることを奇貸とし、清算結了後元清算人に対し、債権の申し出や請求をし、この未引き渡しの財産から、この債権を求めてきたとしても、かかる債権者保護のために清算の結了が覆され、清算人や株主の犠牲の下に、会社の法人格が復活するものではないから、未引き渡しの株主財産をもつて、これを弁済することなどはできないということになる。

以上の通り、商法は「清算事務の終了」に残余財産を分配し終わることなどは予定せず、仮に残余財産を分配し終わつてもそれだけでは清算は結了せず、株主総会の承認によつて清算が終了するのであつて、またこの承認があれば残余財産を分配し終わらなくても、清算は終了するのである。故に、「残余財産があるときは、これを株主に分配し終わつたときに清算は結了し、その法人格が消滅する」という原判決は、商法ならびに最高裁判例に反する違法の判決であるといわねばならない。

第四点 原判決は、「右の負債の中に株式会社に課されるべき国税又は納付すべき国税債務が含まれることはいうまでもないから、会社が右国税を完納しないのに株主総会の前記承認決議があり、清算結了の登記が経由されても、会社はなお存続する」とするが、本件法人税の更正は「株式会社に課さるべき国税」に当たらず、また仮にこれにあたると仮定しても、まだこの処分がない場合は、追加して納付すべき税額が確定しないのであるから、法人税の確定申告が既になされ、この税額を含め総ての債務を弁済し終われば、未納付の国税債務もなく、無事商法四二七条一項の「清算事務が終わつた」ものであり、これに対する株主総会の承認があれば清算は結了し、この清算結了登記を経由すれば、税務署長に対しても対抗し得ることとなるのであるから、仮に後日これに対して更正をなしたとしても、これによつて清算の結了が覆され会社が存続することとなるものではない。

国税徴収法三四条の「その法人に課されるべき国税」とは、納付すべき税額がもつぱら税務署長等の処分によつて確定する賦課課税法式の国税であつて(国税通則法一六条一項二号)、本訴係争処分たる法人税の更正は納付すべき税額が納付者による申告又は例外的に税務署長の処分によつて確定する申告納税方式の国税の一態様であつて、唯この例外に当たるものに過ぎないのであるから(同項一号、同法第二節第三款、三二条五項)、本件更正も又「その法人が納付すべき国税」に該当するものであつて「その法人に課されるべき国税」には該当しない。従つて、本訴においては、清算終了時において、未納付の「その法人に課されるべき国税」などに存在しないのであるから、これが右の負債に含まれると言つても、本訴にとつてはなんの意味も有しない。

しかるに原判決は、下記の通り、これに特殊の意味を付与し「株式会社に課されるべき国税」も右債務に含まれるとして、わざわざこれを掲げ、「株式会社が納付すべき国税」とは確定申告によつて確定した税額のみを指し、本件のごとき更正による税額は「株式会社に課されるべき国税」であるとして、これら両国税が右債務に含まれることは言うまでもないとしているのであり、しかも「課さるべき国税」と言うのを単に国語的に解釈して、課さるべき国税であるから、未だこれが更正処分として課されなくても租税債務になるのは当然であると判示しているものである。

しかしながら、国税徴収法三四条は、解散法人がこれらの国税を納付しない場合、滞納処分を執行してもなお不足する場合に清算人等が第二次納税義務を負うとしているのであるから、未だ納付すべき税額とならず、滞納処分もなし得ない未処分の国税によつて第二次納税義務を負うことなく、たとえ「法人に課されるべき国税」であつたとしても、それが賦課され確定税額とならないかぎりは、第二次納税義務を生ずる租税債務とはならないのである。このように原判決は、「その法人に課されるべき国税」につき、二重の誤りを冒しているものである。「その法人に課されるべき国税」であつても、「その法人が納付すべき国税」であつても、これについて賦課決定や更正がないかぎりは、唯それだけで納付すべき税額として確定した租税債務となるものではない。特に「納付すべき国税」に該当する法人税にあつては、仮にそれが更正などによつて確定するとしても、更正(国税通則法二四条)、再更正(同法二六条)の規定による更正(以下「更正」という)では、既に確定した納付すべき税額にかかる部分の国税についての納付義務に影響は及ぼされないとされているのであるから(同法二九条)、この更正等によつて確定した税額が無効となり、この更正などによる税額が確定申告時にまで遡つて、これに代わつて確定するのではないのである。故に原判決書一四枚目表二行目の「前記認定事実によれば訴外会社の納付すべき本件事業年度に係る法人税は、本件更正処分がされたことにより、訴外会社の確定申告によつて税額零に確定したものとは断定し得ないことになつたもの」というのは、この国税通則法の規定に反する違法の解釈であるといわねばならない。

もつともこのように解しても、法人格が継続する通常の場合は、申告事業年度以後の更正、再更正事業年度において、この増加税額が確定税額となり、確定申告により確定した税額と共に納付すべき税額として租税債務となるので、特にこれを問題とする必要はない。しかし、その間に法人格が消滅した場合はこれと異なるのである。法人税の納税義務は、内国法人になつた時等(法人税法四条)抽象的納税義務が発生し、これによつて初めて各事業年度終了の時(国税通則法一五条二項三号)に具体的納税義務が成立するのであつて、しかもこれが納税申告などにより確定して初めて租税債務となるのであるから、法人格が消滅して抽象的納税義務が存在しなくなつた場合には、そもそも具体的納税義務の成立などあり得ず、ましてこれが確定して租税債務が生じることなどもあり得ないのである。従つて、本訴のように確定申告後何ら更正のない場合に清算が結了し法人格が消滅した場合は、たとえそれが更正の除斥期間内であつたとしても、後日の更正、再更正の時には抽象的納税義務すらないのであるから、これに対する具体的納税義務も成立せず税額の確定もあり得ないのであるから、更正などによつて生じた確定税額が確定申告まで遡るとし、これを完納しなかつたから清算が結了しなかつたとするようなことなどは出来ないのである。第一、その当時ありもしない更正税額を完納することなどは不可能な話である。この確定申告所得が欠損であつて、その確定税額が零であつても、税額が零として確定するのであつて、無申告の場合と同視することが出来ないのである。(同法二五条)。

例外的に、抽象的納税義務が消滅した後に更正などがあつても、これが無効とならない場合もある。法人の合併等により国税の納税義務が承継される場合がこれである(国税通則法六条、七条)。かかる場合は、形式的には法人格の消滅があつても、実質的には法人格の吸収や変容により、法主体の同一性が認められ、その総ての財産が包括的に承継されるため、仮に消滅法人に対し更正などがあつても、それは無効とはならず、承継法人に対する更正として有効となし得るからである。しかしながらかかる納税義務が承継される場合を除いては、消滅法人に対する更正などは無効であつて、第二次納税義務者が存在する場合であっても、無効であることになんら変わりはない。

何とならば、第二次納税義務者は、法人が解散した場合に、その確定した税額を納付しないで残余財産を分配または引き渡したときに、その法人に対し滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足する場合に限り、残余財産を分配又は引き渡した限度でのみその責任を負う者であつて(国税徴収法三四条)、解散法人の納税義務を承継する者ではないからである。税務署長の怠慢から調査及び更正をなさず、そのため清算が結了してしまつたような場合は、消滅法人において未納付の確定税額もなく、徴収すべき税額もなく、これにつき滞納処分を執行することもあり得ないから、第二次納税義務者であつても、かかる税額についてまでその責任を負うことはない。解散による確定申告書を受理し、十分これを調査し更正する期間があるにも拘わらづ、清算の結了に至るまで徒にこれを放置した税務署長が、これについての不利益を蒙つても又止むを得ないものである。このように怠慢で納付すべき税額とすることが出来なかつ税額を、なんの過失もない第二次納税義務者よりこれを徴収する目的で、消滅法人に対し賦課決定若しくは更正しても、これを有効として第二次納税義務者に責任を被せることなど許されないのである。

以上の点から、承認決議の時までに既に更正処分を受けている場合には、この税額は確定税額として租税債務を構成し、この税額を含めた総ての税額を納付しない限り清算事務は終了しないといえるが、この承諾の時までに更正処分をうけなかつた場合には、この租税債務は存在せず、全ての負債に含まれないのであるから、これを支払わなかつたとしても「清算事務は終わつた」ものとされなればならず、株主総会の承認及び清算結了登記の経由により、法人格は消滅するのである。

第五点 原判決は「なお会社債権者に対する催告の規定(商法四二一条)は、国税債権には適用がないものと解するのが相当である。」とするが、かかる解釈は商法に違反する。

租税債権であつても別段の規定のない限り商法の適用を受けるのは当然のことであつて、商法四二一条もその例外ではない。唯、確定申告がこの催告の役目を果すため、特に税務署長等に対する催告の必要はなく(同条一項)、又これにより確定した税額はしれたる債権者の債権に該当するため清算より除斥することが出来ないのにすぎない(商法四二二条二項)。国税優先の原則により、総ての公課その他の債権に先立つて徴収されるが(国税徴収法八条)、そうであるからと言つて商法の規定が総て適用されなくなるものではない。

従つて、催告期間経過後更正によつて確定した税額については、未だ分配のない残余財産に対してのみ滞納処分をなさざるを得ないのであつて、この点においては一般の除斥債権と変わるところはない。しかしながらこの徴収不足税額については、第二次納税義務者より一定の要件の下にこれを徴収することは出来ることとなつているのであるから(国税徴収法三四条)、商法の催告制度の適用があつても、国税債権の保護に何ら欠けるところはない。従つて、更正までになされた他の債務に対する弁済や、既になされた株主に対する分配には影響がなく(商法四二四条)、清算結了後の更正によつて、清算結了が覆されることもあり得ない。

第六点 同法四二七条一項の株主総会の承認決議によつて清算は結了する。しかしこの承認決議が訴えによつて取り消され(同法二四七条)、不存在または無効が確認されたときは(同法二五二条)清算は結了しないことになる。「清算事務が終わらなかつた」にも拘らずこの承認決議をなしたとするのは、決議の方法が法令に違反したものとする取消事由に該当するものであつて、取消の訴えもないのにこの決議の無効を前提として判決をすることは出来ない。又これを違法性の著しいものと考え、決議の内容が法令に違反するものとして決議の無効を認定するとしても、少なくても当事者の無効の主張がなくてはならない。

そもそも本訴においては、残余財産を株主に分配し終わらなくても、又未だ更正もない税額を完納しなくても「清算事務が終わつた」ものであり、これに対する承認決議があつたことによつて清算が結了したものである。従つてこの決議の方法やその内容がなんら法令に違反したものではない。しかるに、上記のごとき決議取消の訴えや無効確認の訴えもなされておらず、しかも被上告人は、この承認決議が有効であり清算登記がなされても、更正の除斥期間内は抽象的納税義務があり、幾度も重ねて更正をなし得るのであるから清算は結了しないと主張しているのであつてなんらこの承認決議の瑕疵を主張しているのではないのである。しかるに原審は「会社が右国税を完納しないのに株主総会の承認があつても」として、この手続違背による承認決議の無効を前提として、して、清算は結了せず会社は存続するとしているのである。これは被上告人において主張のない事項につき判決をなしているものであつて、弁論主義に反し違法である。

第七点 原判決は「会社が右国税を完了しないのに株主総会による前記承認決議があり、清算結了登記が経由されても」会社はなお存続するとするが、適法な承認決議があれば、この登記は不実登記でなく、適法な商業登記として少なくともその登記事項につき対抗力を有し、被上告人に対しても清算結了及び会社の消滅を対抗し得るものである。上記のごとく、被上告人においてこの承認決議が無効であることの何ら主張がないのであるから、原審においてこの登記を適法な承認決議のない不実登記とすることは許されない。このような判決も又弁論主義に反するもので違法である。

第八点 原判決は「本件課税処分は、その名宛人である訴外会社の代表清算人たる同人に対しその住所に送達されている」とし、「その名宛人である訴外会社にたいして適法に送達されている」とするが、これは国税通則法一二条に反する者である。

(1) 同条に定める「送達を受けるべき者の住所」とは、株式会社においてはその本店の所在地を指すものであつて、会社代表者の個人の住所を指すものではない。特に原判決は、訴外会社は存続していると言うのであるから、本件更正の送達もその本店である神戸市兵庫区羽坂通り三丁目七番地の二に送達すべきであつて、山端喜代市の個人の住所である神戸市東灘区西岡本一丁目四番五号に対して更正の送達をなしたとしても、そのような送達は適法な送達ではない。

(2) 山端喜代市は代表清算人ではなく、この送達を受領すべき権限を有しない。上記適法に成立した株主総会の承認決議により、山端喜代市は清算人たる地位も代表清算人たる地位も消滅し、清算結了登記によつてこの対抗力をえているのであるから、被上告人にも対抗することが出来る。従つて訴外会社に対する更正を同人に送達しても、これをもつて訴外会社に対する送達とはならず、送達無き更正として無効である。(同法二八条一項)。

二 予備的請求について

第九点 原判決は、第一審判決を不相当としながら控訴を棄却しているものであり、これは民訴法三八六条、三八八条、三八五条に反する違法の判決である。

(1) 原判決は、三、予備的請求2(一)において「ところで控訴人の本件控訴の趣旨のうち予備的請求にかかる部分は、原判決を取り消して請求認容の実体判決を求めるというものであり、また、被控訴人は控訴人の本件予備的請求にかかる訴えが適法と認められるときは、本件を原審に差し戻すことなく当審において実体審理されることにつき合意している。」とするが、被控訴人がかかる合意や主張をしていないことは本書面第二点においてのべている通りである。

(2) 次いで「思うに、当事者に保障された審級の利益自体は私益的なものであるから、当事者の任意の法規を認めることに支障はなく、従つて、訴えを却下した第一審判決が不相当である場合にあつても、当事者が合意する限り、その控訴審においてこれを取消し実体判断をすることも、必ずしも民訴法三八八条の趣旨に反するといえない」とするが、上告人は第一審判決の取消を求めているもので、第一審判決が不相当であるにもかかわらず、審級の利益を放棄してこの差し戻しをもとめないとするものではない。若し控訴審において上告人の主張立証が尽くされ、十分な証拠調べがなされるならば本案請求についても実体判断をして戴きたいとし処分の取消も求めたものである。若し控訴審において上告人の主張立証が考慮されず、なんの証拠調べもなされないならば、これを第一審裁判所に差し戻されることを望んでいるのは当然のことである。

これについて被上告人の同意があるかどうかは無関係である。若し被上告人においてこの実体判断を求め請求棄却を求めるならば、附帯控訴の手続きによらなければならない(民訴法三七四条)。被上告人が仮にこのような同意をなしたと仮定しても、このような同意をもつて附帯控訴と見なし、原審に差し戻すことなく、請求棄却を求めているものとすることは出来ない。

(3) 更に原審は「ことに、本件においては原審において、実体に関する多数の書証が提出され、これについて証拠調べがなされていることは本件記録上明らかであるから、当審で実体判断することも、許されて然るべきと解するのが相当である。」するが、第一審において提出されている書証は、乙第一号証(国税不服審判所裁決書謄本)、乙二号証(閉鎖登記簿謄本)を除いては、総て原告より提出したものであり、しかもこの中には、主位的請求に係る書証、予備的請求のうち訴訟要件に係る書証が含まれており、予備的請求のうち控訴要件に係る書証が含まれており、予備的請求の本案請求のうちの本訴の争点、即ち神戸市が支払つた補償金の一部金四、五〇〇万円が訴外法人会社株主に支払われたものか、訴外会社に支払われたものかについての書証は、甲第十号証より甲第十三号証まで、甲第十七号証、甲第二十一号証であつて、そんなに多いものではない。しかも、これらについては人証も必要であるにも拘らず、証拠申出の機会も与えられず、原告主張の求釈明が若干あつた程度で口頭弁論が終結されているのであつて、これら重要な書証については、被告が否認したままなんの証拠調べもなされていないのである。このことは本件記録上も明らかである。

(4) 原審にあつても、第一回口頭弁論期日(昭和六三年一〇月四日)において、控訴人準備書面、被控訴人答弁書のとおり陳述するかを確認した後、いきなり本日で口頭弁論を終結したい旨告げられたので、控訴人は代表清算人ではなく、現実に残余財産を株主に引き渡した者ではないが、残余財産の分配決議のあつた株主総会において、清算人として署名しているため、国税徴収法通達によりこれを引き渡した者と推定され、被控訴人より第二次納税義務者として納税の告知を受ける倶れがあり、本件処分の取消を求める訴えの利益があること、詳細は次回の準備書面でこれを釈明したい旨を述べ、更に元代表清算人山端喜代市、及び神戸市代理人弁護士奥村孝を証人としたい希望を有していることを述べ、口頭弁論の続行を求めたところ、別室で協議された後、次回の口頭弁論期日を同年一二月六日とするとの決定があつた。この時裁判長は、被控訴人に対し実体審理をすることに同意するかを尋ねた後、国税不服審判所の裁決書は証拠とはならないから、神戸市の証明書を取り次回にこれを提出するよう促された。そして本訴は当事者訴訟であるから、神戸市の証明と当事者尋問で終わりだと述べられた。

上告人は、このまま弁論の終結されることを恐れ、主位的請求の主張の補強と共に、予備的請求につき訴えの利益のあることを釈明した第二準備書面を作成し、更に実体審理に備えて、文書送付嘱託申立書を作成し同年一一月三〇日第二準備書面とともに第三民事部に提出した。しかるところその三日後、第二回口頭弁論期日より僅か三日前即ち一二月三日に乙第3号証より乙第六号証までの書証の特別送達を受けた。この書証には神戸市の回答書のほか神戸市の代理人奥村孝の回答書も含まれており(乙第五号証)、これは甲第十一号証と矛盾する点があり、真実に反する疑いもあるため、この内容のまま事実の認定をされないよう、大急ぎで添付書類の証拠申込書を作成し、これを第二回口頭弁論期日に持参し、これを法廷受付の書記官に提出した。その副本は同書記官より直ちに存廷の被上告人に交付され送達された。

第二回口頭弁論期日において上告人は乙第三号証より乙第六号証までの成立は認めるがその内容は争う旨述べた。被上告人は奥村孝の証人尋問の必要はないと述べ、上告人に対し同人が証人としてきてくれますかと尋ねた。上告人は甲第十一号証との関係でどうしてもこの証人の尋問をする必要のあること、又同人とは面識がないため是非裁判所より証人として呼び出して頂くよう要請した。これに対し裁判長は、要件証人と言うことですかと尋ねられた。上告人はそうですと答えたところ、別室で協議された後、良ければ当事者尋問をしたいと述べられた。上告人はこの裁判長の言葉が良く聞き取れず、奥村孝が弁護士として他の事件で法廷に来ており、存廷証人としてこの証人尋問が認められるものと勘違いし、奥村先生がいられるのならばお願いしますと答えた。結局これが聞き違いと分かり、上告人は当事者尋問を受諾し、他の事件の口頭弁論の終わるのを待ち、裁判長よりの当事者尋問を受けた。しかるに裁判長はこれで口頭弁論を終結しますと述べられたので、上告人は直ちに異議を述べ、奥村孝は要件事実の証人であること、乙第五号証の回答内容が不自然で不合理であること、仮に真実であるとしても心裡留保等が成立すること、当審が事実審の終審であることをのべ口頭弁論続行の上是非この証人尋問を認めていただきたい旨を述べたが、それ等も皆含めて判断しますから、と言われ口頭弁論終結の上、昭和六四年二月二二日判決を言い渡しますと言われたのである。

第一審において、本案請求につきなんの証拠調べもなく、これにつき第一審がなんの判断もしていないことは記録上も明らかであり、原審においても当事者尋問を除いてなんの証拠調べのないことも以上のとおりである。しかも上告人は、清算人ではあるが会計の顧問として代表清算人山端喜代市の相談に応じていた者でなり、神戸市や神戸市代理人として補償金につき交渉したことはなく、これについての知識は総て右代表清算人よりの伝聞によるものであつて、予備的請求については、当事者適格に関する事実に就ては証拠の関連性はあるが、本案に関する事実については証拠としての関連性がない。このような上告人の当事者尋問をしてもこれをもつて本案についての証拠調べをしたことにはならない。特に要件証人でありしかも代理権の有無、表見代理、心裡留保、虚偽表示等の成立につき唯一の証拠たる奥村孝の証人尋問を却下したことは審理不尽も甚だしいものである。故に、このような事情の下で原審が実体判断したことは違法で許されないものと言わねばならない。

第九点 上述の如く、原審が本案請求について実体判断をすることは許されないが、仮にこれが許されるとしても原判決には法令解釈の誤りがあり、しかもその判決理由に齟齬があるものであつて、原判決の認定した事実によれば、その結論が逆にならなければならないものである。

原判決は「しかしながら、神戸市が訴外会社の株主に対して補償金を支払うべき合理的理由は本件において見出しがたいのみならず、前掲甲第一〇号証、乙第六号証によれば、前記神戸市議会の本件調停についての承認決議及びこれに基づく本件調停条項のいずれにおいても右四五〇〇万円が会社株主に支払われるべき補償金などのその性質、根拠等に関する特段の留保は、明示あるいは黙示のいずれを問わず附されていないことが認められ、右認定事実の前掲乙第五号証によつて認められる前記覚書作成に至る経緯などの事情を併せ勘案すると、」として、「右覚書の内容は、せいぜい調停成立までの過程において、税金対策のため訴外会社側が神戸市に希望したところを文書にしたものに過ぎない」とし、「前記(1)ないし(3)の事実も未だ前記八三〇〇万円か調停条項記載のとおり全額につき訴外会社自体に対する補償金として支払われたものであるとの認定を左右するに足りない」としている。

これによれば、原判決は、右覚書(項第一一号証)の内容が調停成立までの過程において、訴外会社側が神戸市に希望したところを文書にしたものであることを認定しているのであり、同乙第六号証より、この文書を訴外会社代理人に返送したことが明らかであるから、神戸市の代理人が訴外会社代理人の申込に応じてこれを承諾し、これに記名押印して同人に返送交付したものに外ならず、この文書の内容が当事者間の一致した意思表示の内容となり、この内容どおりの法律的効果が生じ、本件調停条項が読み替えられ、その四五〇〇万円が会社株主に支払われる補償金であるという結論に達すべきであるからである。従つて本件調停条項に特段の留保がないという認定をすることはできない。

又、本件補償金は当事者間の合意によつて決定されたものであるから、これを訴外会社株主に支払うべき合理的理由がないとすることは出来ない。本件補償金はとくべつの法律に基づいて交付される行政行為ではなく、私経済取引として営業の廃止に対する損失の補償をするものであり、しかも株主はそれぞれ肉牛の売買を営業とする業者であり、訴外会社の廃業はとりも直さず、株主の営業に著しい支障を来たすものものである。本件補償金が会社に支払われると言つても、実質的にはこのような株主の犠牲の下に会社の解散を条件とされているのであるから、その損失の補償が形式的に会社に対してなされても、実質的に株主の出資や営業に対する補償となるのでなければなんのための補償か分からず、株主側の反対から株主総会において解散決議を得ることすら出来なくなるのである。神戸市における補償の限度が八三〇〇万円にしかならず、しかもこの紛争を円満に解決するためには、せめて株主の出資を補償しなければならず、そのためには、法人に課税され又は株主個人にも課税されるという二重課税を避ける以外には方法はなく、そこで訴外会社において株式出資金額相当の四五〇〇万円はこの補償を辞退し、直接これを株主に補償金として交付してもらうよう交渉し契約したものである。このようなことが仮に税務対策と呼ばれるとしても、これは節税対策として許される範囲のものであつて、決して脱税とかほ税と称するような違法なものにするものではない。

又神戸市において、補償契約の内容が細部においてその予定と異なつたとしても、その契約の細部についてはこれを代理人に委ねざるを得ないものであつて、当事者間の紛争の円満なる解決の下では、結果的には八三〇〇万円の補償金の支出によつて、訴外会社の営業の廃止、店舗の明け渡しの目的を達したのであるから、仮にその一部を直接株主に支払うこととしても、なんらその意に反するものとは考えられないのである。仮に本人たる神戸市がその細部の変更を知らなかつたとしても、又神戸市議会がこれを知らず変更前の内容と錯誤して承認決議をしても、それは単なる内部の意思決定の問題に過ぎず、かかる私的法律行為については、代理人の権限の範囲内において直接本人たる神戸市の効力を生ずるのである。(民法九九条)。

又仮にこの変更が神戸市の真意とことなるとしても、株主や清算人がこれを知り又はこれを知り得べきではないから、それによつてこの効力が妨げられるものではないのである(民法九三条)。また仮にこのような補償契約の細部の変更が代理人の権限外の行為であつたとしても、株主や清算人において、その権限ありと信ずべき相当の理由があるのであるから、神戸市は表見代理の責任を生い株主にその補償金の返還をもとめることなどできないのである(民法一一〇条)。いずれにしても、神戸市にはこの覚書の効力が生ずるものである。原判決にはこの補償契約についてもその法解釈を誤つた違法があり、本件四五〇〇万円は株主に支払われた補償金と言わねばならないのである。

第一〇点 原判決は「控訴人の予備的請求にかかる訴えを却下した部分は、相当でないからこれを取り消したうえ、前記説示のとおり右請求を棄却すべきところであるが、原判決部分について控訴し、被控訴人は控訴していないから、いわゆる不利益変更禁止の法理(民訴法三八五条参照)により、本訴請求を棄却するにとどめざるをえないというべきである。」とするが、かかる判決は民訴法三八四条、三八五条三八六条、三八八条に反する違法の判決である。第一審判決が相当であければ必ずこれを取り消されればならず(同法三八六条)、またその訴が不適法として却下された場合は、事件を第一審裁判所に差し戻されなければならない(同法三八八条)。また控訴棄却は第一審判決を相当する場合に限るのであつて(同法三八四条)、第一審判決を不相当としながら控訴棄却をすることは出来ない。当事者適格を欠くという理由で訴えを却下した判決を違法とするときは、請求が理由ないときでも控訴を棄却してはならないとされている(最高裁昭和四六年二月一八日判例時報六二六号五一頁参照)。かかる場合の控訴棄却は、上告審でこの取消を求めるとしても請求棄却のあつた場合となんら変わらないからである。第一審判決の変更は却下判決の限度で控訴棄却が認められるのであつて、名は控訴棄却でも実質的に請求棄却としての控訴棄却をすることは、これを不利益に変更することに外ならず許されないのである(同法三八五条)。

本訴においては、第一審で何ら実体審理がなく、これに対する実体判断もないのであり、原審でも違法に証拠調べを却下するなど実体審理がなかつたに等しいものである上に、実体判断においても法令違反、理由齟齬の違法の疑いがあるものである。このような場合は特に第一審に差し戻すべきであって、請求棄却や実質的にはこれと同じ控訴棄却の判決をなすことは出来ないのである。同法三八九条の任意的差戻の外特に同法三八八条の必要的差戻の規定が設けられているのはそれなりの理由があるのであつて、安易にこれに反することは許されないのである。原審は不利益変更禁止を理由に控訴を棄却するのが正しいとするが、このような判決は、実質的には第一審判決を取り消して請求棄却の判決をなしたのと同じことであつて詭弁に等しいものと言わねばならない。原判決は同法三八八条に反する違法の判決である。

原判決が引用する最高裁昭和三〇年の判決は、住民に市の区域変更をしないことを求める権利はないとして、第一審判決が訴えを却下したのに対し、これを相当として控訴を却下し、更に上告を棄却したものに過ぎず、本訴とはなんの関係もないのである。また同六一年判決は、第一審ならびに原審において、妨害排除請求権の相手方を誤つたものとし、被告適格のないものとして訴えを却下し次いで控訴を棄却したのに対し、給付の訴えにおいては、その訴えを提起するものが給付義務者であると主張している者に被告適格があり、これを却下した原判決は違法であるが、その被告適格の判断に当たり、当該義務を負担するかどうかの前提として、処分権限を有するか否かという本案請求につき、当事者に主張立証を尽くさせ、審理を遂げているというべきであるから、原判決を破棄し事件を原審裁判所に差し戻す必要はなく、その請求の当否についてただちに判断をすることが許されるとしているのであつて、本訴訟とは全く似て非なるものである。本訴にあつては原告適格の判断は本案請求とは全く関係はなく、これについてなんの審理も判断もなされず、その訴えを却下されているのであるから、引用判決の事例と同視することは出来ない。従つて原審引用の判決はいずれも、本訴に対する先例とも参考ともならない。単に判決書の体裁を調えた飾り物に過ぎない。

以上

(添付書類省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例